大学で最も大切な行事を一つだけ選べといわれたら、それはもう…なんといっても卒業式です。高校と大学の卒業証書の違いは、大学には卒業証書という言葉と共に「学位記」と記されていることです。学位は大学のような高等教育機関で学び、専門的知識や技能を身につけた「しっかり勉強した人です。大学が保証します」という資格なのです。学位は日本だけでなく、世界でも通用するんですよ。何より学位は、学生としての努力の結晶なのです。3月14日に執り行われた佐賀女子短期大学の卒業式では、学長として、一人ひとりに卒業証書を手渡しました。「おめでとう!よく頑張ったね!」と想いを込めて。
だから卒業式の学長式辞は、式のひと月ほど前から考えています。だんだん近づくにつれ、悩みが深くなり…今回で3回目になる式辞は結局、今回も前日の深夜までかかりました。
卒業生にどんな言葉を贈ろうかと僕も毎年卒業することの意味に、新鮮に向き合っている気がします。
今年の式辞では、次の3つの言葉を贈りました。
○自分を信じよう。自分に自信を持とう。
○たまにはスマホを置き、心を落ち着かせて、目の前の人の生身の声を聴き、自然の音に耳を澄まそう。
○We can do it !! きっとうまくいく!!
2つ目の言葉は、実は今回紹介する2冊の本がヒントになっていました。聞くことは「自分の視野を超えた知識が持て、一生の友人をつくり、孤独ではなくなる、ただひとつの方法」である。でもそのためには、ただ聞けばいいというものではなく、考え方やスキルを身につけていることが大事だと教えてくれる本です。「LISTEN」という本は、僕にとってはまさに座右の書、何かあるとこの本を開きます。立場上「話すこと」の多い僕にとって「聞くこと」を強く意識することは、自分への戒めでもあるのです。「アドバイスをしだす人は、きちんと相手の話を聞いていない」、「つまらないギャグを言う人は大抵人の話を聞いていない」、「言いたいことを言わなかったことよりも、聞いておかなかった後悔の方が人生には多い」など、聞くことだけにそれこそ「耳が痛い」指摘がでてきます。しっかり聞く、ちゃんと聞く、友情と信頼関係をつくる聞き方とはどういう態度なのか。いい本です。

もう一冊は、昨年92歳で亡くなった日本を代表する詩人・谷川俊太郎の「みみをすます」です。
みみをすます
きのうのあまだれに
みみをすます
みみをすます
いつからつづいてきたともしれぬ
ひとびとの
あしおとに
みみをすます
めをつむり
みみをすます
ひらがなの178行におよぶ長編詩です。
耳を澄ますという所作から、聞こえるもの聞こえるはずのないものが聞こえ、目をつむり耳を澄ますと、見えるはずもない世界が見えてくる。雑貨、草花、宇宙、恐竜、太古の自然、人々の叫び、嘆き、怒り、あくび、しゃっくり…。人間は、どれだけ豊穣な想像力を持っているのだろうか。私はVRを観せられているのではない、私自身の耳が仮想現実を創造しているのだ。

ぜひ図書館で手に取って、声を出して読んでみてください。